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隷属なき道

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そう、昔は、すべてが今より悪かった。

この文句で始まる、面白い本を見つけました。
リトガー・ブレグマンというオランダ出身の歴史家・ジャーナリストが書かれた「隷属なき道」という本で、日本語版の副題は「AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働」となっています。
初端がなかなか面白いので、少し引用させていただきます。
「ほんのつい最近まで、ほとんどの人は貧しく飢えており、不潔で、不安で、愚かで、病を抱え、醜かった、というのが世界の歴史の真実である。(中略)
だが、この200年の間にすべてが変わった。瞬く間に、私達の種はこの星の支配者になった。(中略)
歴史家の見積もりによると、1300年頃のイタリア人の平均年収はおよそ1600ドルだった。それから600年後、つまりコロンブス、ガリレオ、ニュートンが現れ、科学革命、宗教改革、啓蒙運動が起こり、火薬、印刷、蒸気機関が発明された後の、イタリア人の平均年収は、相変わらず1600ドルだった。
600年に及ぶ文明化を経ても、平均的なイタリア人の生活レベルはほとんど変わらなかったのだ。
1880年頃、つまり、アレクサンダー・グラハム・ベルが電話を発明し、トーマス・エジソンが白熱電球の特許を取り、カール・ベンツが最初の自動車を作り、ジョゼフィーン・コクランがおそらく史上最も奇抜な発明品である皿洗い機を考案した時代になって初めて、我らがイタリア人農夫も進歩の波に乗れるようになった。(中略)
現代の平均的なイタリア人は、1880年のイタリア人に比べて15倍も豊かだ。では、世界経済は?それは産業革命前の時代、つまりほぼすべての場所で、ほぼすべての人が、貧しく、空腹で、不潔で、不安で、愚かで、病にかかり、醜かった時代の250倍に膨らんだ。」

いや、実に面白く刺激的な書き出しです。
しかも「公的補助を受けているオランダのホームレスの生活費は、1950年の平均的なオランダ人より多く、この国が七つの海を支配していた黄金時代の人々よりも4倍も多い。」らしいのです。

この「空腹で不潔」だった人類は産業革命以降、急速に豊かになり始めます。
特に19世紀以降から現在にかけては人口を爆発的に増加させ、20世紀にはそれまでの生活様式をほとんど全て塗り替える経験しました。
私達が当たり前のように使っている様々な道具、それは古い大聖堂のように、ずっと以前から当たり前のように使われてきたかのように思い込んでいますが、パソコンや携帯電話はもちろん、逆にほとんど全てが20世紀に開発された、あるいは普及したものばかりです。
この本では、つい最近までの世界を「空腹で不潔であった」とよく表現していますが、例えば世界の農業生産量を飛躍的に向上させた窒素化学肥料、これは20世紀初頭にドイツで開発されたハーバー・ボッシュ法による合成なのですが、全世界に広く普及したのは第二次世界大戦後です。
清潔という面では、公衆衛生の向上に欠かせない下水処理場は1943年までこの世に存在せず、汚水は河川に直接放流されていて、人口が集中する大都市を流れる河川は悲惨な状態でした。
日本に目を向けるとテレビ放送が開始されたのは1953年ですし、車が広く普及し出したのは1960年代以降です。
従って60年前の日本には車もテレビも普及しておらず、山間部では近くの小川へ水を汲みに行ったり、木を人力で運び、薪を使った生活をしていたわけです。
社会保障の面でも、今では当たり前だと思っている国民皆保険制度や国の年金制度がスタートしたのは1961年です。
先進諸国で女性参政権が認められたのもほとんどが20世紀になってからで、道具やインフラ、社会制度のほとんどは「つい最近」に出来たものなのです。
この「つい最近」の劇的変化は、人類の歴史のほとんどの期間を覆っていた空腹との戦いをほぼ収束させて、今日の世界では空腹に悩む人より肥満に悩む人の方が多くなってしまっている状況です。
今、私達の生活は、手元にタブレットとテレビのリモコンがあれば世界中の情報にアクセスできますし、欲しいものの注文もできます。
エアコンは常に部屋の中を快適な温度に自動調整してくれますし、冷蔵庫の中ではビールがいつも冷え、いつでもお風呂に入れます。
今から200年前にナポレオンは欧州の覇者となりましたが、私達の今の生活は皇帝ナポレオンの生活レベルを遥かに上回っているでしょう。

そして現在、さらに凄まじいスピードで発展しつつあるものがあります。
1965年、IBMの技術者だったゴードン・ムーア氏は、一枚のチップに集積されるトランジスタの数は1959年から毎年、倍増していることに気付きます。
彼は、この調子で増えるとすごいことになるよと論文で発表しますが、当時は自分自身でもあまり信じていなかったようです。
しかしその予測は見事に実現し、ムーア氏の予測は法則になりました。
プロセッサー内のトランジスタの数を比較すると、1971年に発売されたインテル4004が2300個であったのに対し、2013年に発売されたビデオゲーム機・Xbox Oneには50億個を集積するチップが使われました。
4004と比較すると実に217万倍のチップ数ということになり、勢いの凄まじさがよく分かります。
また最新のプロセッサーの回路幅は10nm(ナノメートル)というもので、これはインフルエンザ・ウイルスの直径である約100nmの1/10という微細さで、私のような素人から見ると理解できないほどの驚異です。

イギリスで起こった産業革命は、人間を肉体的労働から解放し大きな生産性向上をもたらしましたが、同時に社会制度も大きく変えていきました。
今度は、黎明期に比べて数百万倍の能力を持つに至ったコンピューターが、AIとしてある部分で人間の脳に入れ替わろうとしていますし、ビッグデータとの融合は革命的な社会変革をもたらすかもしれません。
さて、これからの世界はどうなるのか。この興味深い本を、よく読んでみたいと思います。

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