プログラミング教育

隷属なき道 2

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さて前回に続き、「隷属なき道」を読み進んでいきます。

この本の第一章は「過去最大の繁栄の中、最大の不幸に苦しむのはなぜか」と題されています。
今の私たちは、物質面に関していえば2百年前に欧州を制覇した皇帝ナポレオンよりも豪華な生活を堪能していると言えます。
幸せという概念の具体的な中身を「食べることに困らず、長生きできる」ことだとするのであれば、既に2005年の時点で、一日2000キロカロリー未満で暮らす人の割合は世界中で3%となっており、平均寿命は1900年に比べてなんと倍増しています。
つまり幸せは実現し、楽園は現実のものとなったと言えるわけですが、その反面で経済的格差は世界に広がり、先進国ではうつ病が蔓延しています。
これは、なぜなのでしょうか。

一気に第八章の「AIとの競争には勝てない」まで飛びましょう。
この章は、次の語りで始まります。
「20世紀初頭、既に機械は、古代から続く職業を廃れさせようとしていた。1901年のイギリスには、その職業に従事するものが100万人以上いたが、数十年後には、その大半が姿を消した。」
この「古代から続く職業」とは、自動車に取って代わられた役馬です。
今ではなかなか信じられませんが、第二次世界大戦の火蓋を切ったドイツのポーランド侵攻において、ドイツの戦車部隊を迎え撃ったのはポーランドの騎馬隊で、ここら辺りまでは役馬という職業が存在し、モンゴル帝国がユーラシア大陸を席巻していた頃と基本的に同じ戦法が使われていたことが確認できます。
この戦闘の結果はというと、騎馬上からのライフル射撃は、戦車部隊を先導する歩兵隊への打撃には有効であったものの、鉄の車に生身の人馬が勝てるはずはなく、騎馬隊は殲滅されてしまいました。
さて話は戻って、100年前に起こった「古代から続く職業」の消滅事件は、現代で再び起こるのでしょうか。
これについては、こう続きます。
「今のペースでロボットの開発と進出が進めば、残された道は一つしかない。構造的失業と不平等の拡大だ。(中略)まず奪われたのは、私達の給料だ。アメリカでは、平均的なサラリーマンの実質給与が1969年から2009年までの間に、14%下がった。ドイツから日本に至る他の先進国でも、生産性は伸び続けたにもかかわらず、何年にもわたってほとんどの職種で賃金は上がっていない。最大の理由はシンプルで、(機械化によって)仕事がどんどん減ってきているのだ。」
この技術革新が進行することにより、労働市場が構造的に変化することで発生する失業を、あのケインズは「技術的失業」と名付け、「それは短期的には失業者が発生するであろうが、時間が経てば新たな技術に適応するであろうから、失業問題も解決されるだろう」と述べています。
実際に1950年から60年代にかけて、アメリカの自動車産業はオートメーション化が続きましたが、雇用は安定して賃金も上がり続け、いわゆる黄金時代を具現化しました。
20世紀の間は、生産性の伸びと雇用の伸びはほぼ並行し、人間とロボットの共存が出来た美しい時期が続きましたが、世紀末頃からITやロボットは突然にスピードを上げ、工場はもちろん事務所にも次々と導入されました。
これによって、ITが最も代替しやすいとされる定型業務職種(中間スキル層)が減少し始め、また同時並行して進行したグローバル化と相まって、生産性が伸びる一方で雇用者数や収入が伸び悩む現象、いわゆる「グレート・デカップリング」が問題となっていきます。
ここで多くの人は「違うだろ。先進国の工場が中国やアジア諸国に猛烈な勢いで移転されたからだろ。」と思うでしょうし、私もそう思いました。
しかし驚くべきことに実際は、中国の製造業で働く労働者ですら、1997年に比べて2千万人以上減少しているそうです。
従って先進諸国の雇用は新興国に奪われているのではなく、AIやロボットなどのテクノロジーに奪われ、今の段階ではテクノロジーに代替が困難なスーパーやファストフード、介護などの低賃金労働の雇用が膨らんでいるというのが実情なのです。
ここまでくると、次は「では一体、AIやロボット化が進みことで、誰が利益を得ているのか」ということが問題になってきますが、これについて本では次のような例を示しています。
「イギリスの経済学者アルフレッド・マーシャルは、19世紀後半にすでにこの流れに気付いていた。世界が小さくなればなるほど、勝者の数は少なくなる。その時代にマーシャルは、グランドピアノ生産の寡占が進むのを目の当たりにした。社会インフラが整備され、輸送コストが大幅に下がり、ピアノ製造業者は商品を輸出しやすくなった。マーケティング力と規模の経済によって、大手の製造業者は、地元の小規模な製造業者をあっという間に壊滅させた。」
これはまさに、21世紀において小規模な商店や書店を、Amazonが呑み込んでしまった構図とそっくりです。
これは「勝者が独り勝ちする社会」と呼ばれ、どの業界でも巨人はますます進撃して、さらに巨大化しています。
また市場自体が変わってしまったという例では、デジタルカメラを開発し、1980年代には14万人を雇用していたコダック社が2012年に破産申請するに至った事実と、その同じ年に社員数13名だったインスタグラムが、Facebookに10億ドルで買収された事実を上げています。
巨人が誕生し、産業の新陳代謝が進むことで経済の規模が大きくなっていくこと自体、それはそれで順調な発展ということができ、資本主義経済下では好ましいことであるはずなのですが、ここにAIとロボットの影響が出てきます。
1964年の米国4大企業は43万人の従業員を雇用していましたが、2011年には企業価値は倍増したものの従業員数は1/4に減少しています。
つまり生産性は年々向上し、AIやロボット導入による革新は加速をつけて進んでいるものの、労働面から見ると雇用は減少し平均収入が落ちているということになります。
この結果として起こっているのが、ほとんど全ての先進国で拡大している経済的格差で、特に米国における貧富の差は、奴隷経済の上に成り立っていた古代ローマ時代よりも大きくなっていると言われています。
これが冒頭に書いた「過去最大の繁栄の中、最大の不幸に苦しむのはなぜか?」というパラドックスの中身です。
AIやロボットは生産性の劇的な向上をもたらしながら、私達の身近なところにどんどんと入ってきていますが、これが経済格差拡大の大きな要因ともなっており、これを是正するためには社会の再分配システムの見直しを考えなければならない臨界点に近づいているというのが、この本で述べられている意見であり、なるほどと頷かされることが多いです。
こんな話も引用されています。
チェスの世界チャンピオンであるオランダ人のヤン・ヘイン・ドネルは、コンピューターと戦うことになったら、どんな戦略を立てるかと尋ねられ、彼は即答した。「ハンマーを持っていきますよ。」
さてAIやロボットは、我々にとって救世主になりうる存在なのでしょうか、それとも?

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