プログラミング教育

箱根駅伝とビッグデータ

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今年の箱根駅伝は、圧巻でした。
例年の通り、母校の名誉をかけて全力で駆ける選手達はもちろん素晴らしいのですが、今年の駅伝で特に注目され圧巻だったのは、その足元ではないでしょうか。
そうです、あの厚底のマラソンシューズ「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」です。
参加選手全210人のうち、このナイキの厚底を着用していたのは実に177人、着用率は84.3%と圧倒的でした。
加えて更に驚くべきことには、10区を除く区間賞と、6つの区間新記録は全てこのナイキの厚底を履いた選手によるもので、まさに「記録を塗り替える結果」を示したわけです。

ではこのナイキの厚底とは何か、ちょっと調べてみましょう。
従来のマラソンシューズは「薄くて反発性の強いソール」が主流で、路面を蹴り上げることでスピードを出す、という設計思想によって作られていました。
従って厚底というもの自体が、従来の常識からは真逆のものであるわけですが、ナイキからこの反常識モデルである厚底が登場したのは2017年7月で、ヴェイパーフライ 4%という初代モデルを大迫選手が履いて話題になりました。
ちなみに大迫選手はその後、厚底を履いたシカゴマラソンで、2時間5分50秒の日本記録を出しています。
ナイキは5年の歳月をかけ、収集したビッグデータを用いて物理と解剖学の観点からランニングフォームを分析し、フルマラソンで夢の2時間切りを目指すテクノロジーを詰め込んだとしています。
そしてその最速のための回答は、従来からある「路面を蹴り上げてスピードを出す」ではなく、「効率的な重心移動を可能にするシューズ」でした。
これを実現するために靴を厚底にかえ、厚底の中にカーボンプレートが埋め込んだのが今回の駅伝で圧倒的な強さを見せた、あのシューズだったわけです。
ランニングフォームを科学的に解析しておられる細野史晃氏は、次のように解説しておられます。
「走るという動作は、重心移動を連続して行う動作です。歩きとの大きな違いは、重心移動の最中に両足が地面から離れる瞬間があるということ。つまりバネのように弾む動きが必要になります。これは短距離でもランニングでも同じ。走りは体をバネのように使いながら前への推進力を得る運動なのです。」
従って力の方向としては、水平ではなくわずかに上方、斜め上に跳ねるようにして進むのが正解で、実は短距離用のスパイクシューズは以前からこの効果を狙って、前足部に体重が乗りやすいスプーン型の構造になっていました。
しかし短時間勝負で「疲労」が大きな問題にならない短距離と違って、長距離では重心の位置に加え、ランナーの疲労をいかに軽減するのかも大きな課題となります。
疲労軽減のためには、シューズにある程度のクッション性を持たせる必要があり、斜め上方向に跳ねやすいスプーン形状を維持しながらクッション性を持たせるという両方の課題解決に用いられたのが、あの厚底の形状です。
そしてクッションによって減衰された反発力を補うため、カーボンプレートを内蔵させ、厚底モデルが完成したというわけです。

この厚底の登場と活躍は、陸上競技の世界だけではなく、従来の生産と流通、マーケティングを全て変えてしまう可能性があります。
昔からトップアスリートの使用する道具は、熟練の職人さん達によって作り出される「匠の逸品」として供給されてきました。
しかしこれはメーカーサイドから見ると量産の出来ないオーダーメイド商品で、憧れの逸品として人気がいくらあっても、広く市場に供給することは出来ないという矛盾があったわけです。
しかしナイキはビッグデータを活用することで、この矛盾を打ち破りました。
トップアスリートから一般の人まで幅広く世界的なビッグデータを集め、これを駆使して万人に通用する理想の走りやフォームをはじき出して、オーダーメイドの「匠の逸品」方式ではなく「万人共通」方式を編み出してしまったのです。
実際に競技用シューズで使用されているクッションは、「リアクト」という一般の人がタウンシューズとして履く靴に使用しているものをそのまま使っており、商品ラインアップも練習用なら1万円未満、本番用でも3万円強の手の届く値段帯で全方位展開しています。
これはビジネスの観点から見ると物凄いことで、今までは量産の出来ない匠の世界であったものを、トップアスリート用からタウンユース用まで、本番から練習用まで全てを総取りしてしまったということが出来るわけです。
速く走るための従来理論を変え、マーケティングも変えてしまったというのは、まさに革命と言っても過言ではありません。
この革命を可能にしたのが、ビッグデータの活用とエビデンスに基づく開発であったといえるでしょう。

さて今まで私達は、「経験則」という何か曖昧だけれども昔からこれが良いと言われている方法を、多くの場面で選択し従ってきました。
なぜなら、特に反論する理由もなく、それしか頼れるものがなかったからですが、では本当にそれで良いのか、エビデンスはどうだと問われると、誰も答えることは出来ません。
「21世紀の資本」を著したフランスの経済学者トマ・ピケティ氏はその本の中で「富の分配をめぐる知的・政治的な論争は、昔から大量の思い込みと事実の欠如に基づいたものとなっていた」と述べておられますが、エビデンスの存在しない経験則には、思い込みや事実とは異なる解釈が混入し、それが既成事実化されてしまうリスクを排除できません。
これは別にランニング方法や経済学だけではなく、政治も科学も、医学も教育も、理系も文系も全ての研究と実践が、この曖昧な経験則によって行われてきたのです。
それもそのはず、なぜなら私達が「ビッグデータ」なるものを収集し利用できるようになったのはごく最近、21世紀になったあたりからで、今の私達はようやく、コンピューターの発達によって膨大な量のデータ蓄積が可能となり、ICTの発達によって広く多様なデータの収集が可能となりました。
これからは、この収集された膨大なデータを有為に活用し分析することで、ようやく私達は今までの経験則を評価することが出来るようになり、決断にあたっては正確なファクトを活用することが出来るようになります。
この新しい作業を行うことで、今回のナイキのようにビッグデータを活用して従来の常識や経験則を覆し、新たなラインやプラットフォームを築き上げるケースが多く出てくるかもしれません。
実は私達も現在、操作履歴を蓄積できるプログラミング学習用ロボットQumcumの特徴を活かし、教育ビッグデータとしての展開や新しい利用法がないかという課題と夢に取り組んでいます。
ナイキのように驚くような成果が出せれば良いのですが、専門の方々や関係者の皆様の意見も幅広くお聞きし、ビッグデータという新しい分野への知見を高めることで、少しでも夢の実現に近づきたいと考えています。

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