データヘルス改革と教育ICT

2019年10月10日に「第3回 医療等分野情報連携基盤検討会」が開催されたとの報道がありました。

さて、これは一体何の検討会なのかというと、厚労省に推進本部のある「データヘルス改革」を押し進めるための検討会です。

では「データヘルス改革」とは何なのかというと、ICTを活用した健康管理・診療サービスの提供や、健康・医療・介護領域のビッグデータを集約したプラットフォームを構築していくという、壮大な国家プロジェクトです。

世界最高水準の高齢化率を背景に、より効果的かつ効率的な医療介護サービスの提供を第一の目的とし、更には医療ビッグデータの利用によって画像診断や診療支援といった医療AI開発の環境整備も、その狙いとしています。

このデータヘルス改革は、その範囲が財政から個人情報管理から医療ビッグデータから、種々様々の広大な関係分野を持つために、そう簡単には前に進めないものではありますが、中でも特に医療ビッグデータの利用には、なかなか大きな問題がありそうです。

現在、レセプト電子化により年間約20億件の医療情報、3千万件の健診情報、1.5億件の介護情報が取り扱われ、厚労省のレセプト情報として累計で130億件以上のデータが蓄積されていますが、この有益なデータの民間での活用はまだ認められていない状況にあります。

これはデータを安全に利用できる環境が未整備である点が原因であり、従ってこの言わば宝の山を利用するためには、個人情報の確実な保護を前提にした上で、健康・医療・介護等のデータを連結し、プラットフォーム化していく必要があるのですが、想像するだけで気の遠くなるような壮大な作業です。

ビッグデータなどという壮大な話ではなく、比較的身近なケースで見ても、電子カルテを導入した個別の医療機関、例えば地域の総合病院などが近隣病院と施設間連携や地域連携を行おうとしても、他の医療機関との情報共有のハードルは大変高いものがあり、なかなか前に進まないのが現状です。

これはなぜかというと、各病院が独自基準で導入している現在の医療情報システムは、そもそも医事会計システムを出発点としており、会計情報を伝達するオーダリングシステムを中心としてきたからです。

今世紀に入ってから診療記録を電子保存するシステムが開発され、周辺部として診療支援を謳うシステムが数多く開発されましたが、中心部が病院会計と施設内受発注業務を目的にしている状況に変わりはなく、医療情報の相互共有という概念が元々存在していませんでした。

またそのシステム自体もベンダーがそれぞれ独自開発し、それがまた独自の進化を遂げてしまったため、異なるベンダー間でのデータのやり取りは極めて困難で、施設間連携や地域連携を実施する際にも、大きな障害になっているのが現状です。

話を戻して国全体を見た場合も同じで、そもそも国民皆保険の元でレセプト処理を円滑に行うために発展してきたのが今のシステムであり、医療ビッグデータの活用などという観点で語られるようになったのは、クラウドシステムが発達してきた最近のことと言っても過言ではありません。

つまり初めは想定されていなかった機能を後から追加して活用しようという話であり、それに個人情報の厳格な管理という問題も入ってきて、内容を更に複雑化させています。

しかしながら問題山積といっても、進むべき方向に間違いはありません。

高齢化が進展する中で社会保障費の抑制は財政上の喫緊の課題であり、最適な医療・介護体制の構築に加え、ビッグデータを有効利用した様々な研究開発等は、行わなければならない最重要な命題となったのは間違いありません。

私達の生活、子供らの未来が安心安定したものであるようにするために、データヘルス改革は何としても完遂させなければならない最重要政策の一つと言えるでしょう。

さてデータヘルス改革の規模には全く及びませんが、我々のプログラミング教育用ロボットであるクムクムもビッグデータの利用が可能です。

クムクムの教育機関向けクラウドバージョンには、操作者の操作履歴を保管する機能がありますし、今後のバージョンでは子供達の属性条件等を入力する機能の追加を考えています。

そこで私達が考えているのは、例えば子供達がテキストに従ってクムクムの操作を行った場合に、どこの課題で時間がかかったのか、あるいはどこの課題はスイスイとクリアできたのかを実際の操作履歴から分析することで、カリキュラムの改善等に活かすことはもちろん、子供達の特性を見いだすことに活かせないかという点です。

従来の教育では、例えば受験業界や全国統一テストのように「結果」についてのデータは広く活用もされ分析もなされてきましたが、子供が「いかに学んだか」という過程、またその結果との相関関係は、データとして蓄積されることも分析されることもありませんでした。

これは当たり前のことで、以前はそのような学習の過程と結果を蓄積するテクノロジーがなかったからですが、今はそれが出来うる環境になってきています。

現在、教育のICT化というとプログラミング教育の開始と、教室のホワイトボードに表示された説明図を子供達がそれぞれに持ったタブレット端末で拡大表示させて見る、といったデジタル機器やインターネット環境の導入ばかりのイメージがありますが、私達は子供達が「いかにして学んでいくのか」という過程を有効なデータとして蓄積し、それらのデータを科学的に分析して教育カリキュラムの改善や、子供達一人一人が持つ優れた特性の発達伸長に活かすことこそが、教育のICT化であると考えています。

つまりは先のデータヘルス改革と同じで、ICT化によって蓄積できるようになったビッグデータの有効活用こそが最重要、と言えるのではないでしょうか。

さて、そうは言っても私達は教育の専門家ではなく、クムクムというプログラミング学習用ロボットを開発し、操作履歴も蓄積できる仕様にしたものの、実際にデータをどう分析し、その結果をどう活かすかの知見は残念ながら持ち合わしておりません。

蓄積されたデータを分析して、教育の現場や指導方法にどう活かしていくのかは、やはり豊かな知見をお持ちの方々の御力添えが必要です。

そのために現在、某教育大学の先生方と一緒になって、どのような活用が有効であるかの研究をスタートさせています。

幸いなことに、教育大学の先生方もクムクムをたいへん気に入ってくださり、実際の教育現場への今秋からの導入も決定するなど、とても前向きかつ迅速に動いていただいており、私達も今後の進展に期待を膨らませているところです。

プログラミング教育用ロボットであるクムクムがより多くの教育現場に導入されて子供達がこれに触れ、その触れたデータが蓄積・分析されて、指導内容の改善や子供達の特性の発見にフィードバックされる、そんな素晴らしい循環が実現される日を楽しみにしながら、今後の進捗について、その都度にアップさせていただく積りにしております。

 

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